
小さな顔に丸い瞳、スラリとした胴長の体――イタチはその可愛い外見からは想像できないほどタフで凶暴な生態を持つ動物です。
日本全国はもちろん、世界中に広く生息し、夜行性を基本としながらも必要に応じて昼間も活動する柔軟さを備えています。
また、イタチは人間の暮らす屋根裏や畑に現れることもあり、害獣として扱われる一方で、オコジョやテンと並ぶイタチ科の仲間として生態や見分け方に興味を持つ人も多いのではないでしょうか。
本記事では、イタチの生息地や食べ物、夜行性の習性、大きさの比較、そしてオコジョやテンとの違いまで、幅広く分かりやすく解説します。
イタチの生態

種類と分布
世界に広がるイタチ属の仲間たち
イタチは、食肉目イタチ科イタチ属に分類される動物で、世界中に広く分布しています。
種類や亜種を含めると20種類近く存在し、ユーラシア大陸・アフリカ大陸・南北アメリカ大陸など、寒冷地から温暖な地域まで幅広い環境に適応しています。
小柄ながら非常にタフで、地球上の多様な環境に暮らせるのがイタチ属の強みです。
日本に生息する4種7亜種
日本にも複数のイタチが生息しており、大きくは4種7亜種が確認されています。
代表的なものは以下の通りです。
- ニホンイタチ:本州・四国・九州に広く分布。茶褐色の毛並みが特徴。
- チョウセンイタチ:外来種で、黄色みを帯びた毛色。特に西日本で目撃される。
- イイズナ:小柄で可愛らしい見た目。寒冷地に多く生息。
- オコジョ:体は小さく俊敏。冬には白い毛に換わり、雪に紛れて暮らす。
これらが地域ごとに生態系を築いており、在来種と外来種のバランスが崩れることで、生態系への影響が懸念されています。
生息地の特徴
イタチは「隠れられる場所」を好みます。
草むら、岩場、山地、河川敷、水辺、さらには人家の屋根裏や床下まで、環境を選ばず適応できるのが特徴です。
寝床は倒木や岩の隙間、土に掘られた穴などで、暗く狭い空間を巣にします。
ペットのフェレットが家具の下やバッグの中を好んで潜り込むのと同じように、野生のイタチも「秘密基地」を作り、獲物や餌を持ち帰って貯め込む習性があります。
この行動は野生でも家屋侵入でも共通して見られ、人間の生活圏に出現する大きな理由のひとつとなっています。
イタチの体の特徴
ダブルコートの被毛と換毛期
イタチは寒さに強い動物で、冬眠をせずに冬を越します。
その秘密は被毛にあります。
外側は雨や汚れ、衝撃から守るオーバーコート、内側は高い断熱効果を持つアンダーコートという二重構造(ダブルコート)になっており、極寒の地でも体温をしっかりと維持できます。
さらに春と秋には換毛期を迎え、夏は涼しく冬は暖かい毛並みへと切り替わる仕組みを持っています。
日本に生息するニホンイタチは茶褐色や濃い褐色、チョウセンイタチは黄色がかった毛色をしており、地域や種によって毛並みの印象も異なります。
基本は夜行性、でも昼間も活動する理由

イタチは一般的に夜行性とされ、夜になると活発に動き回ります。
屋根裏に住みつかれると、夜中にバタバタと走り回る音がして眠れないという被害報告も多く、夜行性であることがうかがえます。
しかしイタチは環境への適応力が非常に高く、食料が不足する冬や子育て中には昼間でも行動します。
つまり「夜に活動することが多いが、必要なら昼間も動く」柔軟な生活リズムを持っているのです。
ペットのフェレットも飼い主の生活リズムに合わせて起きたり眠ったりするため、イタチ科共通の適応力といえるでしょう。
水かきや木登りもできる行動力
イタチは陸上を走るだけでなく、水中や木の上でも自在に動けます。
足には水かきがあり、魚やザリガニを捕らえる際に役立ちます。
また木登りも得意で、鳥やその卵を狙うこともあります。
昆虫や小動物を捕食する一方、冬には獲物が減るため、昼夜を問わず常に獲物を探し続ける姿勢が見られます。
「夜行性に縛られず、生き延びるために何でもする」――そんなタフさこそ、イタチが世界中で繁栄している理由のひとつです。

イタチの食べ物と狩りの方法
主食はネズミや小動物
イタチは肉食性の強い雑食動物で、もっともよく食べるのはネズミです。
農村部では「ネズミ退治の名手」とも言われるほど、巧みに捕らえて食べます。
また、自分より大きなウサギや鳥にさえためらわずに襲いかかることがあり、その獰猛さがよく分かります。
魚・昆虫・鳥の卵など多彩な食性
水かきがあるため川や池に飛び込み、魚やザリガニを捕まえるのも得意です。
さらに、昆虫、トカゲ、カエル、鳥、そして鳥の卵まで幅広く食べます。木登りも上手なため、樹上にある巣から卵を持ち帰る姿も観察されています。
ただし、肉食傾向が強いため植物の消化酵素をほとんど持たず、木の実や果物だけでは生きていくことはできません。
植物の栄養をどう取り入れているのか
「イタチは肉食だから植物はいらないのでは?」と思うかもしれませんが、実は植物の栄養も必要としています。
ただし自分で草を食べるのではなく、獲物となる草食動物や雑食動物の胃を通して間接的に摂取します。
ネズミやウサギなどを仕留めると、まず内臓から食べるのはそのためです。
胃の中に残っている半消化状態の植物を食べることで、食物繊維やビタミンを効率的に取り込むことができるのです。
イタチの強さと性格
恐れを知らない無謀な行動
イタチは小柄ながら、非常に獰猛で恐れを知らない動物です。
体長30〜40cmほどしかないのに、自分より大きなウサギや鳥にも果敢に挑みます。
怪我を負ってもひるまずに立ち向かう姿は、まさにタフそのもの。
「怖い」という感覚が薄く、降りられない高所にも登ってしまう無謀さが行動からもうかがえます。
犬・猫・フェレットとの比較
犬や猫と比べると、その性格の違いははっきりしています。猫は冷静で、勝てないと判断すれば逃げることがあります。犬は吠えて威嚇するものの、恐怖心から攻撃に出るケースも多いです。
これに対してイタチは「勝てるかどうか」よりも「とにかく挑む」姿勢が強く、勇敢というより無鉄砲に近い印象を与えます。
一方でフェレットは、人に飼われるよう改良されたイタチ科の仲間で、甘噛みをするなど比較的温和です。
野生のイタチとは根本的に性格が異なります。
野生イタチとペット化されたフェレットの違い
フェレットは人間と共生できるように改良されたため、飼い主に懐き、遊び好きで愛嬌があります。
しかし野生のイタチは人間を「敵」と認識し、容赦なく攻撃します。
噛まれれば深刻な怪我を負う可能性が高く、決して近づいてはいけません。
「可愛いから触ってみたい」と思うかもしれませんが、野生イタチにとって人間は脅威そのもの。
むやみに近づかず、観察するに留めるのが鉄則です。
イタチの大きさ比較と見分け方
平均的な大きさ(オス・メス差)

イタチの体は胴長短足で、しなやかな筋肉を備えています。
平均するとオスは体長30〜40cm、体重300〜820gほどで、メスは20〜30cm、体重110〜430gと一回り小さめです。
尻尾は10〜15cm程度あり、体長に加えると全体の長さは50cm近くになることもあります。
見た目は小さな猫に近いですが、俊敏さと獰猛さはそれ以上です。
オコジョ

オコジョはイタチよりさらに小柄で、体長15〜30cm、体重150〜300gほどしかありません。
尻尾も短く5〜10cm程度で、全体的にコンパクトな体つきです。
大きな特徴は冬毛で、秋から冬にかけて茶色い毛が真っ白に変わります。
雪景色に溶け込みやすくなるため、イタチやテンと比べても外見で区別しやすい動物です。
テン

テンはイタチやオコジョよりも大柄で、体長45〜50cm、体重450〜1,000gほどになります。
尻尾も20〜25cmと長く、全体的に「大きい!」と感じる存在感があります。
毛色は黄色や茶色で、顔周りに白っぽい模様がある個体も多く見られます。
山間部に生息することが多いため、市街地で遭遇するイタチよりも迫力ある姿を見せることがあります。
足跡の特徴(5本指+肉球)
イタチ科の動物は足裏に5本の指があり、指の付け根に肉球が1つあります。
そのため足跡には「5本指+肉球1つ」がくっきり残るのが特徴です。
犬の足跡は4本指+2つの肉球跡、アライグマは人間の手形のような跡になるため、区別が可能です。
ただし、イタチ・オコジョ・テンの足跡は大きさがわずかに違う程度で、素人が判断するのは難しいといわれます。
フンの違い(イタチ・オコジョ・テンの比較)
フンを観察すると、それぞれに特徴があります。
- イタチ:長さ5〜6cmで細長く、水気が多いことが多い
- オコジョ:3cm前後でコロコロとした形状、毛が混ざることが多い
- テン:10cmほどと大きく長いフンで、毛が混ざっている
この違いを知っておくと、家周りや山歩きで「どの動物が近くにいるのか」を推測しやすくなります。
プロの見分け方と注意点
害獣駆除の専門業者は、足跡やフンの細かな違いをもとにイタチ科の動物を見分けます。
素人には判別が難しいため、「動物の種類を断定できないけれど怪しい」と感じたら、専門業者に相談するのが安全です。
また、フンには寄生虫や病原菌が潜んでいることが多いため、むやみに触れたり片付けたりするのは危険です。
見つけた場合は距離を取り、必ず手袋や道具を使うようにしましょう。
人間とイタチの関わり
屋根裏や軒下に住みつくケース
イタチは暗くて狭い場所を好むため、人家の屋根裏や床下に入り込むことがあります。
特に冬は暖かく外敵も少ないため、格好の住みかとなりやすいです。
一度住みつかれると、夜中に走り回る音や鳴き声が響き、生活に大きなストレスを与えます。
被害の内容(悪臭・騒音・病原菌)
イタチは巣の中で排泄をするため、糞尿による悪臭が充満し、住環境が不衛生になります。
また、捕らえた獲物の死骸を持ち込む習性があり、腐敗や病原菌の繁殖を招きます。
さらに、屋根裏を走り回る音が深夜に響くことで騒音被害も深刻です。
こうした理由から、イタチは害獣として扱われることが多いのです。
駆除や対策(法律・業者依頼・追い払い方法)
イタチを勝手に捕獲・殺処分することは法律で制限されています。
特にメスの捕獲は禁止されており、無許可での駆除は違法行為となります。
そのため、もし自宅に住みつかれた場合は、ナフタリンや強い匂いのある薬剤を使って追い払うか、専門の害獣駆除業者に依頼するのが安全です。
早期対応をしなければ被害はどんどん拡大してしまうため、「物音がする」「糞を見つけた」などのサインがあれば、すぐに対策を講じることが重要です。

まとめ
イタチは世界中に広く分布し、日本でも4種7亜種が確認されています。
夜行性を基本としつつも、食料や繁殖の状況に応じて昼間も活動する柔軟さを持つ動物です。
ネズミや小動物を主食とし、魚や鳥の卵、昆虫など幅広い獲物を捕らえる狩猟能力を備えています。
一方で、人家の屋根裏や軒下に住みつくことがあり、騒音や悪臭、病原菌の温床といった被害を引き起こします。
イタチを追い払う際には法律の規制があるため、早めに専門業者に相談するのが安全です。
また、大きさの比較では「小柄なオコジョ」「中間のイタチ」「大柄なテン」と分けられますが、足跡や外見だけで見分けるのは難しく、フンの特徴を手がかりにするのが有効です。
とはいえ、野生動物に近づくのは危険なので注意が必要です。
見た目の可愛らしさとは裏腹に、イタチは恐れを知らず、どんな相手にも挑む無謀さを持っています。
そのタフな性格と行動力こそが、彼らが世界中の環境に適応し続けてきた理由といえるでしょう。